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アズレンのS2発光の謎が遂に解明⁉ 

論文紹介

Excited-State (Anti)Aromaticity Explains Why Azulene Disobeys Kasha’s Rule
David Dunlop ,  Lucie Ludvíková ,  Ambar Banerjee ,  Henrik Ottosson* , and  Tomáš Slanina*
J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 39, 21569–21575
DOI: org/10.1021/jacs.3c07625

本記事では上記の論文について紹介しています。
アズレンのS2発光についての内容になるので有機化学の学生や有機化学に興味のある方の参考になればと思います。

アズレンとは?

Fig. 1 アズレンの共鳴構造

アズレンは10π芳香族の非交互炭化水素であり、シクロペンタジエニルアニオンとトロピリウムカチオンを併せ持つ共鳴構造により分極構造を有しているといわれてきていました。より細かいアズレンの性質はこちらの記事を参考にしてください。

アズレンはS1からの発光を示さない珍しい分子!

アズレンはカシャ則に反してS1発光を示さず、S2からの発光を示す代表例です。その理由として、1) S2とS1のエネルギー差(∼14,000cm−1)が大きいため、S2-S1間での内部転換が遅く、S2から発光する、2) S1の最小エネルギー付近にある S1-S0間での円錐交差によって緩和する、これらによって説明されてきました。しかし、アズレンの構造との関係性までは明らかにされてきませんでした。

論文の概要

Tomášらはアズレンの反カシャ則的な振る舞いについて電子構造との関係性を調べるために基底および励起状態の (反) 芳香族性に着目し、理論計算および実験によりその関係性を明らかにしました。得られた結果についてまとめると以下のようになります。

・アズレンのS0状態は外周部分で10π芳香族性を示し、トロピリウムカチオンやシクロペンタジエニルアニオンの共鳴構造の寄与はほとんどない
・S1状態はシクロペンタジエニルラジカルおよびシクロヘプタトリエニルラジカルの寄与が大きく反芳香族性を示す。
・S2状態は主に外周部分で芳香族性を有する。

アズレンに実はほとんど分極構造の寄与がないというのは驚きでした!

また、S2発光を示す理由として以下が挙げられていました。

・S1状態は反芳香族性を有しており、構造緩和が大きいのに対し、S2状態は芳香族性を有するため、構造緩和が小さい。そのため、S2からS1への内部転換が非常に遅い。
・S1状態では不対電子が5員環と7員環にそれぞれ1電子ずつ分布することから電子間反発が小さく、エネルギー準位が低い。一方でS2状態では不対電子がアズレンの外周部分に共有されるので電子間反発が大きく、エネルギー準位が高い。
・S1-S2ギャップが大きいため、S2からS1への内部転換が遅い。
・S1とS0のエネルギー曲線の交点(円錐交差点)でのHOMOーLUMOギャップが狭いことから不対電子同士が組を作りやすいためS1からS0に無輻射失活する。

感想

アズレンのカシャ則に従わない理由についてはずっと気になっていたので初めてかなりすっきりとした説明がなされていて興奮してしまいましたね!
基底状態および励起状態の芳香族性に着目しての考察というところで新たな知見を得られたなーと思っております。
アズレンがS1発光を示さない理由が解明されたことでS1発光を示すアズレンの分子設計の指針になるのではないでしょうか。ぜひ期待したいところです!

参考文献

T. slanina et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 39, 21569–21575.

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